[レポート] デジタル庁のこれからについて CPO(Chief Product Officer)が語る『始まる!行政でのプロダクトマネージメント』 #pmconf2021
2021年10月26日(火)、プロダクトマネジメントに携わる人たちが共に学び、切磋琢磨するイベント『プロダクトマネージャーカンファレンス2021』がオンライン形式で開催されました。
当エントリでは、ブレイクアウトセッション『始まる!行政でのプロダクトマネージメント』の参加(視聴)レポートをお届けします。
目次
セッション概要
セッション概要は以下の通りです。
始まる!行政でのプロダクトマネージメント
[登壇者]
・水島 壮太氏(デジタル庁 Chief Product Officer / ラクスル株式会社 取締役CPO / 日本CPO協会 理事)
[セッション概要]
9月にデジタル庁が誕生しました。私はChief Product Officerとして、行政におけるデジタル施策において、アジャイルなプロダクトマネージメントをリードする幹部人材としてジョインさせていただいてます。民間から多数のIT人材がジョインしており、また、各府省からもデジタル政策に精通した職員が一気に集結していますが、デジタル庁がこれから何をしようとしているのか、そして、その中でどのようにプロダクトマネージメントを実践しようとしているのか、まだ、1ヶ月程度の解像度ではありますが、日本に暮らす人々に価値を届けるプロダクトマネージメントを行政で実践する、というのはどういうことかをお話できればと思います。
(※以上、公式サイトより引用)
セッションレポート
はじめに
- pmconfは一昨年、去年と参加させて頂いた
- 今年はまさか行政側の立場から参加するとは思っていなかった
- 日本に於いてデジタル庁が設立され、CPOというポジションが明確にあり、プロダクトマネージャーという職種の人が居るというのは日本のデジタル化が進む上で非常に良いことだと思う
- 現時点の状況から、まだ「ノウハウを共有する」という段階には至ってないが、プロダクトマネージメントの観点で今後どうしていこうと思っているかをお話していこうと思う
- セッション30分、FAQ(公開Ask the Speaker)を15分位やります
- 事前に打ち合わせと称して及川さんから質問攻めに遭った。その時の内容が面白かったので
- 自己紹介
- デジタル庁は非常勤 週2(残りはラクスル:デザイン推進室 室長として)
- ほぼフルリモートワーク
両利きのプロダクト開発
- 「アジャイル、スクラム」と「大規模ウォーターフォール開発」
- イノベーションを起こす開発手法だと前者だが、デジタル庁としては後者の手法で開発していくものもある
- 国民に使われて国民の生活をより豊かにしていくための「非連続な」プロダクト開発はアジャイル、スクラムと上手く組み合わせてやっていくことが非常に重要になっていく
- ラクスル社でも開発手法は混在している
- どっちが良いかという話ではなく、見極め使い分けが重要
- デジタル庁も、まさにここの差配が重要になってくると考えている
なぜデジタル庁に来たのか?
- ミッション:アジャイルなプロダクトマネージメントをリードする幹部として
- 面接で「デジタル庁も内製化を推進していくんですよね?」と質問 → 「基本Yesです」という回答
- デジタル庁の組織体制
- 組織情報|デジタル庁
- 水島氏はCPOとして幹部レイヤーで課題について議論している状況
- 現在フォーカスしているのは2つ:CDO浅沼氏とディスカッションしながら進めている
- 国民向けサービスグループ - フロントサービス
- プロダクト(サービス)チームの組成
デジタル庁にプロダクトマネージャーはいるんですか?
- PdMユニットに10名程度在籍、各重要案件に入り込んでいる
- デジタル庁の紹介
- ミッション(Core):
- 誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化を。
- ビジョン(Core):
- Government as a Service
- Government as a Startup
- バリュー:
- この国に暮らす一人ひとりのために(Who? / Human Centerd)
- 常に目的を問い(Why?)
- あらゆる立場を超えて(D&I=ダイバーシティ&インクルージョン, Openess)
- 成果への挑戦を続けます(Outcome, Not Output)
- ミッション(Core):
What & How? - 具体の話
- WhatとHowを規定している大きな2つの法案が閣議決定され、それに沿ってデジタル庁も立ち上がった
- デジタル社会の実現に向けた重点計画:これに沿う形でプロジェクトが組成され、デジタル庁の施策が進んでいる/これらに基づいて動くプロジェクトのゴールをそれぞれ定めるタスクを担っている
- 「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を閣議決定しました |デジタル庁
- ①:UIUXを強化していくし、サービスも拡充していく
- ②:共通機能がなくバラバラだ、という課題感、インフラ整備
- ③:データを活用していく、という課題設定
- 【2020年改定版】デジタル・ガバメント実行計画の概要:
- デジタル・ガバメント実行計画 | 政府CIOポータル
- ロードマップのベースになっているもの
- 国及び地方自治体のデジタル化にも言及
- 扱うプロジェクトが多い(これらはデジタル庁で一括管理していく)
- 民間だとここまで細かく開発計画、施策を赤裸々に外に向けて記載するというのは無い。施策を開示してリーダーシップを持って進めていく、という"覚悟"を感じられるのは良いことだと考える
- (水島氏個人の)プロダクトマネージメント的な観点で見ると、ちょっと"How"の記載が多いなぁという印象ではある/ゴールとか指標の記載があまりないので(水島氏)が内部に入り込んでプロジェクト推進をサポートしている
- 現在デジタル庁が向き合っている施策は基盤そのもの、全体のアーキテクチャを刷新していくというもの。こういう場合はロードマップをきちんと示す、というのが有用であると考える。これらのHowは検証・精査しながら進めていく
- デジタル社会の実現に向けた重点計画:これに沿う形でプロジェクトが組成され、デジタル庁の施策が進んでいる/これらに基づいて動くプロジェクトのゴールをそれぞれ定めるタスクを担っている
- What / Howのストーリーライン
- ガバクラというクラウド基盤を作り
- 数百の府省システムや約1700の自治体のシステムを集約することで
- 運用コストを3割削減
- BPRを通じて業務を標準化、相互に接続し、APIを公開
- アジャイルに高品質なUI/UXを官民で提供し、利用率を向上
- 行政サービスを100%デジタル化
すべての行政手続きを60秒以内にスマホで完結
- プロダクトマネジメントの世界で言う『North Star Metrics』。
- 実際に行政手続きに関して、体験して掛かった時間を計測してみた → 結果、転出手続きは「21分」、転入手続は「30分」、車庫証明については「93分」掛かった。
- ペインは分かりやすい
- 課題は沢山ある。優先順位をどう決めるのか。
- 優先順位をどうやって決めるのか?
- 重点施策と位置付けられたから vs ユーザーインパクトがあるから
- デジガバの「サービス設計12箇条」、これはまさにプロダクトマネージメントだなと実感。非常に刺さる言葉が並んでいる。
- サービスデザイン思考によるサービス・業務改革(BPR)を進めよう | 政府CIOポータル
- これを「本当にできているのか?」と常に問い続け、ハンズオンしていくのが自身のミッションなのかな、と考える
CxOとしての足元のアクション
- 顧客の何を解決するのか:常にWhyとゴールを問うカルチャーの醸成
- 技術、データ、システムに高い解像度を持った意思決定が出来るリーダーシップ強化
- アジャイルな開発プロセスの導入
- 内製開発組織の構築と拡大
ベンチマーク
今後のチャレンジ(まとめ)
- アジャイル/ウォーターフォール、内製化/外部調達の最適を考える『両利きのプロダクト開発マインド』が必要。
- デザイン(UI/UX)ファーストな開発プロセスの浸透
- デジタル庁はプロダクトマネジメントをやっていく
- 課題:実行力とカルチャーの醸成
- 優先順位を意思決定するための評価方法の確立
- 丁寧なハンズオンと相互オンボーディングによる官民融合のプロダクトチーム作りがKey Success Factor(重要成功要因)
- デジタル庁 We are hiring!!
Q&A
冒頭言及があったように、セッションのラスト15分は水島氏と運営スタッフによQ&Aが展開されていました。
「Q.〜」の部分が運営スタッフによる質問、そこに紐付く文章はは水島氏の会話となります。
Q1.
- Q. デジタル庁内部の印象について:外から見ると、ステレオタイプ的になってしまいますが「お役所仕事」的な部分もあるのかな?とイメージしてしまます。民間・スタートアップも経験された水島氏の視点からの印象を聞かせてください。
- デジタル庁の場合は、民間でもスタートアップ以外のところから来ている方もいるし、各省庁からデジタル庁に来た方々も、恐らく役所の中でも「デジタルに強い方々」でしょうし、クイックに動く方々なのかなと思います。
- やはり、ベースとなるカルチャーは皆さんそれぞれ違うし、非常に多様な組織になっていると感じます。注意しなければいけないなと思っているのは、スタートアップから来た人達はスピード感・温度感が合うんだけれども、そこを言語化せずに「阿吽の呼吸」でやっていると、そこだけがサイロ化してしまうし、役所の方々も役所のやり方でやっちゃうとサイロ化してしまう。
- デジタル庁は"多様な組織"。プロセス然り、仕事のやり方然り、きっちり言語化して相互理解を作っていくというところは非常に重要だなと感じています。我々の常識は通用しないし、逆の状況も同様。そういう状況がこの2ヶ月間多々発生していた。ただその状況はポジティブに捉えていて、「あ、じゃあ説明しますね」とそこで相互の信頼関係を作っていっている。僕(水島氏)はこういうのを上手くチームとしてユニファイ(統一)していくところに燃えちゃうタイプなので頑張っていきたいと思っています。
- なので、質問に端的に答えると「(イメージされているのとは)全然違います」。
Q2.
- Q. カルチャーへの投資について:事業会社の場合、事業を優先することでカルチャーへの投資が疎かになるケースもあるかと思います。その際トップの人達は「カルチャーへの投資」の重要性を理解していて、(カルチャーへの投資を)促進していくという部分もあるかと思いますが、デジタル庁ではその辺りどのような状況・温度感でしょうか。
- デジタル庁の前にまずラクスルの話を。ラクスルでも今まさに「カルチャーに投資しよう」という動きになっている。民間でもその動きは「あるある」だと思います。
- デジタル庁でも、投資していきたいという思いはある。ただ「カルチャーへの投資」ってファジーな領域でもある。投資はどこから出ているかと言うと皆様の税金から出ているので難しいところではある。ROI(投資利益率)がなかなか見えづらい部分ではあるし、「デジタル庁がカルチャービルディングするために沢山税金を使いました!」ってなっても国民の皆さんに理解はされないと思います。そこも含めて、投資についてはエビデンスや実証実験等をふまえて進めていこうと思う。少なくとも、お金を使わなくとも「行動を変容させる」ことは出来ると思うので分かりやすいところからカルチャーを変えていきます。
- ちなみに、他の省庁でも同じ様な問題は抱えていて、カルチャーやワークスタイルを変えていこう、という実証実験は結構やられている。農林水産省などは進んでいるイメージ。そういったところの事例も含めてデジタル庁自身も行政の生産性を高めるためのカルチャー醸成を推進していきたい。
Q3.
- Q. プロダクトマネージャーとして今回の話を聞いて、参加された皆さんが違和感を感じる部分に「誰一人取り残さない」というのがあります。事業会社をやる上ではセグメンテーションやターゲッティングなどを行ってプロダクトを作っていくことが多いと思いますが、このメッセージについて、水島さんとしては(プロダクトマネージャーの立場から)どう捉えていますか?
- 最初デジタル庁に入った時、「Why?」やゴールの部分を考える際にはどうしても"民間"の考え方でやってしまっていた(例:このユーザーセグメントのこのアクティビティのこの指標が良ければGoなのではないか...)。
- 元々省庁にいらっしゃった方々からすると、「"ユーザーを絞る"という事については、考え方が違う」。
- アクセシビリティに関しては、チームもあるし投資していく方針。
- 対応しきれない部分については代替手段を提供。
- また、デジタル化をする事によって、生産性が上がり余力が出来ますね→余力が出来たら人ベースの所に投資をしていって、きっちりと「デジタルが使えない方々」をサポートするところにリソースを割り当てるなどして、デジタルが進んだからみんな便利なサービスが享受出来たよね、という世界にしていきたい。
Q4.
- Q. 現時点で水島さんの考える「行政サービスとして、優先度の高い課題やサービスプロダクト」にはどのようなものがありますか?
- この件については、"平時"と"非常時"があると思っています。
- ワクチンについては一刻の猶予も許さない形、トップダウン・総理大臣から指示が降ってくるようなレベルのもの。緊急度の高いところのプロダクトをきっちり仕上げる...というのはあります。また、災害が発生した際にデジタル庁がどういうところで貢献出来るのかという部分のディスカッションもしています。
- もう一点、各省庁が"個別最適化"で作ってきたプロダクト群があります。これらはクオリティ的にも様々。国民から見た時にこれが分かりやすいのか、使いやすいのか...という部分には大きな課題があると考えています。デジタル庁としてはこの点についてプロダクトとして再定義を行い、中長期の視点で「どういう見せ方をしたらユーザーにとって良いものになるのか」という部分をプライオリティを高いところになります。
- 「デジタル庁のプロダクト、クオリティ上がってきたね」と今日聴いていらっしゃる皆さんに思って頂けることがまず1つゴールなのかな、と考えています。
まとめ
という訳で、プロダクトマネージャーカンファレンス2021のセッション『始まる!行政でのプロダクトマネージメント』の視聴レポートでした。
デジタル庁に関する内容という事で個人的興味関心も一際高いものでしたし、色々と参考に出来る部分も見付けられたセッションでした。